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2015年10月28日

エイジングケア

国民医療費と「未病」

1015健康寿命 論文の図修正s

最近、「かかりつけ薬局制度」のことがニュースで流れました。これは患者さんが任意で選んだ「かかりつけ薬局」の薬剤師さんに、服薬状況を一元管理して貰い、薬の重複や飲み残しを防ごうというものです。

高齢化の進展で、75歳以上の半数近くが1か月に複数の医療機関に通っているそうです。
薬の重複や飲み残しも多く、これらを防ぐことで年間数千億円の医療費の削減が見込めるといいます。また、飲み残してはいけないと考え重複した薬を服用すれば、その副作用による健康被害も発生します。健康になろうと思って病院に行き、不健康になる。なんとも皮肉な話です。

今回は国民医療費と健康・アンチエイジングについて、一緒に考えましょう!
皆さんもご存知のように増え続ける国民医療費は、2013年度に40兆円を超えました。更に、高齢化に伴って毎年1兆円ずつ増えると言われます。政府も、なんとか対策を、ということで消費税のアップだけでなく、先に触れた「かかりつけ薬局制度」等の導入を考えたのでしょう。

国民医療費推移s
▲高齢化に伴い、医療費は増加している。

この医療費40兆円に対し、国家の財政はどうなっているのでしょうか。
同じ2013年度の税収は43兆円、新規国債発行額(借金)も43兆円、税外収入が4兆円です。大まかにいうと、国民医療費に充てるために借金(新規国債発行)をしていることになります。この問題は、私たち国民もいつまでも無関心ではいられません。
このような高齢化社会で国民医療費の増加を防ぐ手立ては、国の財政面から鑑みて喫緊の課題なのです。

今年4月に訪れたアフリカのジンバブエ。
経済崩壊によりハイパーインフレーションがおこり、数千万持って行ってようやくパン1個という国もあるのです(現在は自国通貨を止めざるをえず、米ドルを導入しています)。私たち国民一人一人が、国民医療費の問題に真剣に向き合う時に来ているのではないでしょうか?将来の子供たちに問題を押し付けるのではなく・・・。

ジンバブエ紙幣s
▲ジンバブエの紙幣

私は、国民医療費の削減のために具体的に求められるのは、病気になってからの医療・治療ではなく、「未病」段階での対策と考えています。
未病とは、健康と病気の状態を「裏表」と捉える(病気でなければ健康、健康でなければ病気・・・右頁図A)のではなく、図のBのように健康の程度を高い状態から低い状態というように「連続的」に捉え、それが低下し病気に至る途中段階を示すものです。

151027未病s
▲健康、未病、病気の関係

「通常の生活で心身を整え、健康の程度をより高い状態に引き戻す」=「未病を治す」ことが大切なのです。

生活習慣病を例にとると、悪化すると命にかかわる重大な病気にかかったり、介護が必要になったりします。この場合、生活習慣病や重大な病気になってから対策(治療や介護)するのではなく、普段の生活からバランスの良い食事や適度な運動を心がけ、健康状態を高く保つ(未病を治す)ことにより、病気発症のリスクを減らすことが大切なのです。これが結果的に、医療費、介護費などの抑制に繋がります。また、健康寿命の延伸にも繋がります。

逆に、乱れた生活習慣は、健康状態を低くし、未病を放置することになります。生活習慣病、さらには重大な病気や要介護となるリスクが高まり、医療費はこのまま増える一方です。健康寿命も短縮され、アンチエイジングどころではありません。

生活習慣を整えることで、医療の手を借りずに病気を治してしまったという例があります。日本抗加齢医学会でご一緒する渡邊昌先生による書籍『「食」で医療費は10兆円減らせる』の中で紹介されています。

先生は国立がんセンターの疫学部長として、がんの疫学研究に没頭していた時に、突然、糖尿病を宣告されます。担当の医師からは薬を飲むようにすすめられますが、渡邊先生は、「食事と運動」で糖尿病を克服します。
その具体的方法は、食事は欧米型食生活から和食に(肉より魚、野菜は多めに。そのほかにも細かく気を配ったとのこと)。運動は通勤のひと駅を徒歩にして、仕事中は病院内をこまめに歩き、毎日一万歩を持続したそうです。

その一年後、メタボ体型から13キロ痩せ、血糖値は正常になり、更には肩こりや足の疲れ、水虫など、たくさんあった体の不調もすっかり解消してしまったといいます。
その後先生は、「薬を使わず、食事と運動だけで糖尿病を治したお医者さん」として大手新聞に紹介され、これが大きな反響を呼びます。
しかし同時に、全国の医師から「食事と運動だけで治る」というのは、糖尿病患者に誤解を与える、として抗議が殺到したそうです。もともと糖尿病治療には「食事と運動」という選択肢があるにもかかわらずです。

先生はおっしゃいます。今の医療現場では、十分な指導もしないで、すぐに投薬する医師が少なくないのが現実だと。その現実は、「糖尿病」「糖尿病を疑われる人」が増え続ける結果として表れています。

ここで、単純に比較をしてみましょう!糖尿病で医療にかかる場合と、生活習慣の改善で治す場合です。
生活習慣の改善で治した場合、医療費は掛かりません。本人も快適です。
悪い生活習慣を放置して糖尿病が悪化、人口透析になってしまったとすると、人工透析は年間500~600万円かかり、患者も家族も大変です。もちろん国民医療費もどんどん増えて行きます。現在、残念ながらこのような患者数は増え続けています。

先生はこの書籍で、未病対策を国家レベルで推進して行けば、無駄な治療や薬が不要となり、試算では10兆円程度の医療費の削減が可能と言います。これは大変な金額です。

近年、世界中が日本食(和食)に注目しているにも関わらず、日本人の食生活は欧米型の動物性高脂肪食へ移行を続け、栄養バランスが崩れがちです。
病気になる前の未病の段階で、普段からバランスの良い食事を心がけ、自分に合った適度な運動をしましょう。補足として、食生活のバランスを整え補うには、「機能性食品」の活用も効果的と考えます。有名人のCMや、イメージに惑わされず、安全性や機能性に優れた十分なエビデンス(科学的裏付け)のあるものを選びましょう。

生活習慣を整え、未病を治すこと。それが、病気の発症リスクを減らし、健康寿命の延伸、アンチエイジングに繋がります。結果的には医療費、介護費の抑制にも繋がるのです。
私たち一人一人の実践で生み出される金額は小さくても、全体的には大きな数字となって返ってくるでしょう。

参考文献:『「食」で医療費は10兆円減らせる』 日本政策研究センター/渡邊昌著

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※番外編コラム筆者紹介
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サンプライズ株式会社
代表取締役社長:元井益郎
薬剤師、NR(栄養情報担当者)、日本抗加齢医学会認定指導士。
1946年生まれ。東京薬科大学薬学部卒業。ジェーピーエス製薬株式会社入社・退社後、サンプライズ株式会社設立。東京大学や慶應義塾大学など、国内の著名な大学機関と抗加齢に関する共同研究を行っている。趣味は山登りとマラソン。

元井 益郎

薬学博士/社長

1分も走れないペンギン歩きから、世界7大陸最高峰を目指す70代に。

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