白髪は抜けない!?本当?

誰が言い出したのかはわかりませんが、「白髪は抜けにくい」という俗説があります。また、インターネットの検索項目では、「白髪頭に薄毛(ハゲとなっています)なし」と出てきます。続けて検索してみると、よくわからない、他愛ない、読めば読むほど情けなくなるくらいのばかばかしい解説が溢れています。

確かに、高齢の男女の頭部を見ると、薄毛になっているか白髪になっているかのどちらかなので、白髪は抜けにくい、つまり、白髪頭は薄毛になりにくいと感じるのかもしれません。実は、白髪が抜けにくいことを示唆する現象が、確かに臨床で見られるのです。

画期的な医学研究の成果は、シャーレや試験管の中の、誰もが追い求めて、一番に確認するような研究によるのではなく、セレンディピティ(追い求めている研究内容ではない、注意深さと幸運によって探していなかった事実が見つかること)による新事実の発見と、実際の患者さんの病態から教えてもらうことによってもたらされます。

白髪は抜けにくいかどうかという疑問に対しても、患者さんの治療経過の写真から、その答えが見えてきました。

 

円形脱毛症で、白髪は抜けない!

円形脱毛症治療のために、私のクリニックを受診した50代男性の頭部写真をご覧下さい。

▼写真1:50代男性/多発型円形脱毛症。左から治療前、治療10日後、治療1ヵ月後、治療1ヵ月半後。

彼は、風邪の治療のために耳鼻科で出された、抗ヒスタミン剤(鼻水を止める薬)とモンテルカストという抗アレルギー剤が原因で、円形脱毛症を発症しました(製薬会社へ副作用を報告済み)。

そして、カプサイシンやイソフラボンなどのサプリメントと、漢方薬に近いセファランチンという薬(最近、新型コロナウイルス感染予防効果があることが判明)で、インスリン様成長因子-1(IGF-1)を増やす治療を開始しました。 IGF-1は、育毛効果と、自己免疫(円形脱毛症の原因)を抑制する作用を持っています。

この治療により、産毛が生えてくる前に、毛根が傷んで寿命の短くなった毛が抜け、その後に産毛が生えてきます。

この男性も、そのような毛の生え変わりが起き、治療開始からそれに伴う脱毛が見られました。そして患者さんは、治療を開始して白髪が増えたような気がすると言っていました。

しかし写真をよく見てみると、白髪が増えたのではなく、黒い毛だけが抜けて、白髪が抜けずに残っていました。そのために、相対的に白髪が増えたように見えたのです。すなわち円形脱毛症の場合、黒い毛は傷んで抜けますが、白髪は抜けないのです。

また、重症円形脱毛症の治療で、最初は白い産毛が生えてくることも多くあります。すなわち、メラニン色素を持たない白髪は、抜けにくく、生えやすいのです。なぜ円形脱毛症では、白髪が抜けないのでしょうか?

 

円形脱毛症は自己免疫疾患。この傷害の標的は、毛根のメラニン色素関連物質であった!

これまでにお伝えしたように、円形脱毛症は自己免疫疾患です。自己免疫でも正常の免疫反応でも、免疫反応では、一般に標的とする「抗原」と呼ばれる物質があり、それに対し抗体やリンパ球が反応して、攻撃を加えます。

正常の免疫では、抗原がウイルスや細菌なのですが、自己免疫の場合、体の中の正常組織が抗原(自己抗原)となるので、組織の傷害が起きるのです。

例えば、同じく自己免疫疾患の一つである関節リウマチの場合は、自己抗原が関節の軟骨の成分なので、それが自己免疫により破壊されて、関節炎が起こるのです。

円形脱毛症の場合は、毛根のとある物質が自己抗原となり、リンパ球がこれを攻撃するために、脱毛が起こります。

これまでの研究成果からは、この場合の自己抗原の一つが、メラニン色素(毛髪の黒い色素)の合成に関与するタンパク質(医学的には、melanogenesis=メラニン色素合成-associated peptide=関連ペプチドと言います)であることがわかっています。

したがって、毛根がメラニン色素を作らない白髪は自己免疫を免れるので、円形脱毛症になっても抜けず、また、円形脱毛症の改善に際しては、白髪が先に生えてくることがあるのです。これらの現象を、私の患者さんで確認できたということになります。

 

自己免疫は、老化に伴って起こりやすくなる

自己免疫疾患は、遺伝的な背景を持つ人に現れることが多いのですが、病気とまではいかなくても、高度なストレスや老化によって、免疫系の異常、すなわち、免疫力の低下や自己免疫が起こりやすくなります。 

したがって、加齢によって白髪になっていれば、大きなストレスが加わって、自己免疫現象が引き起こされても、黒い毛より白髪は抜けにくいということになります。

このようなメカニズムにより、ストレスに対して、白髪は黒い毛よりも強いと考えられるので、確かに巷間で囁かれる「白髪頭に薄毛なし」という噂も、医学的に裏付けられるのかもしれません。 

 

IGF-1を増やしていれば、白髪にもなりにくく、自己免疫も起こしにくい

円形脱毛症以外の、男性型脱毛症や女性型脱毛症の患者さんにIGF-1を増やす治療を行うと、産毛が生え、髪の毛のツヤやコシがよくなることに加えて、白髪が減ってきます(このことはすでに当コラムでお伝え済み)。

では、黒い毛が多いと、自己免疫の標的になるかといえば、IGF-1が増えた状態ならば自己免疫も抑制されるので、老化や大きなストレスでの脱毛もなくなります。

カプサイシンやイソフラボン、キングアガリクスなどのサプリメントでIGF-1を増やしておけば、白髪のようにストレスに強く、黒い髪を維持することができるでしょう。